
大人の矯正
大人の矯正
かつては子どもが受けるイメージが強かった矯正治療。しかし、近年では大人になってから治療を始める方が増えています。歯並びやかみ合わせは、見た目の印象だけでなく、むし歯や歯周病、頭痛や肩こりなどの全身の不調とも関係していることが明らかになってきたこともその一因です。Kiyak(2008)の研究によれば、矯正治療は自己肯定感を高め、社会的自信の向上にも寄与することが示されています。社会人になってからのライフスタイルに合わせた治療法も選べるようになり、専門的な知識を持った歯科医師・歯科衛生士による万全なフォロー体制のもと、安心して治療に踏み出せる環境が整ってきました。
見た目の改善に留まらず、機能面・心理面や生活の質(QOL)そのものの向上にもつながることがさまざまな研究で示されています。大人の矯正には以下のような特徴やメリットがあります。
反面、歯周病などのリスクを考慮した治療計画策定が肝要であり、治療前、治療中および治療後に歯ぐきの健康維持や定期的なメンテナンスにも留意することが重要です。一般的には骨の柔軟性が低いため、歯の移動に時間がかかるとの指摘がありますが、必ずしもそれが当てはまるとは限りません。また大人の顎の骨は成長が止まっており、基本的には現状の骨格に合わせた歯の移動プランニングをする必要がありますが、過度な骨格的位置の偏位を認める際には、当院では手術を併用した外科的矯正治療を選択することも可能です。『顎変形症に関する保険適用となる矯正治療』の項もご参照ください。
姿勢への影響
咬み合わせのずれは、顎関節に負担をかけ、姿勢不良や首・肩のこりを引き起こすことがあります。特にSatoら(2009)は、咬合の乱れが姿勢制御に影響を及ぼす可能性を示し、歯列と身体バランスの関係性について明らかにしました。
筋肉への影響
不正咬合は、咬む際の筋肉の動きに影響を与え、過度な緊張や疲労を引き起こすことがあります。Okeson(2020)らは、不正咬合が慢性的な筋骨格系の痛みと関連することを報告し、矯正治療によりそういった筋肉のバランス改善が期待されるとしています。
生活の質(QOL)への影響
矯正治療は見た目の改善だけでなく、心理的な満足感や社会的自信にもつながります。Yoshinoら(2014)の研究では、大人の矯正治療が心理的満足度や社会生活の質に好影響を与えることが確認されています。
近年では、口腔機能に関する精密な検査が矯正治療の質を大きく左右することが明らかになってきました。Ferrarioら(2004)は、筋電図を用いた咬合評価が顎機能の診断に有効であることを示しており、van der Bilt(2011)は、咬合力分析が治療後の安定性評価にも貢献すると述べています。当院では「検査・診断・治療」が三位一体となった矯正治療を心がけております。特に、大人の矯正では「正確な診断に基づいた治療計画策定」が何よりも大切です。そのため、以下のような専門的検査を取り入れています。
咬合力検査
噛みしめる力の強さやバランスを調べ、歯への負担を可視化します
顎運動検査
あごの動きの滑らかさや咬み癖をチェックし、適切な咬み合わせを探ります
筋電図検査
咬むときの筋肉の活動を数値化し、過度な緊張や無意識の癖を把握します
口腔内スキャナによる事前セットアップ
3D画像で治療後の歯並びをシミュレーションし、治療目標について共有できます
これらの検査を組み合わせることで、見た目だけでなく「機能」を最重視した矯正治療が可能になります。特に、咬み合わせの不具合によって引き起こされる不調(咀嚼障害、顎関節症、頭痛など)を未然に防ぐためにも、精密な検査は欠かせません。
当院では、基本的検査(専門的問診、印象採得、口腔内および顔貌写真検査、レントゲン検査、CT検査)に加え、筋電図・顎運動測定装置や口腔内スキャナー、咬合力測定器などの設備を整え、目では見えないお口の働きまで丁寧に分析しています。こうした検査体制は、多くの医院では日常的にまだ取り入れられていない部分でもあり、そのこだわりは当院の強みでもあると考えます。
大人の矯正治療は、以下のようなステップで進んでいきます。
初診相談
お悩みやご希望を伺いながら、矯正治療の概要をご説明します。
精密検査
咬み合わせ・骨格・筋肉等の状態を多角的に分析します。
診断・治療計画のご提案
検査結果をもとに、最適と考えうる方法や代替案についてご提案。
治療開始
装置の装着やマウスピースの作製を行い、治療スタート。
調整・経過観察
月1回ほどの通院で装置を調整、歯の動きを継続的にチェックします。
保定治療
歯並びが安定するまでリテーナー(保定装置)を使用します。
全体の治療期間は、およそ1年半〜2年半程度が目安です(個人差あり)。
矯正治療の費用は、選択される装置や保険適用になるかによっても異なります。自費による加療の場合、例えば
ワイヤー矯正(表側)
約80〜100万円前後
マウスピース矯正
約50〜80万円前後
舌側矯正
約150〜200万円前後
※これらは一例であり、分割払いや調整費、保定装置の費用なども含まれます。詳しくは初診時にご説明いたします。
マウスピース矯正とワイヤー矯正の効果や治療期間については多くの研究が行われています。Keら(2019)の研究では、軽度から中等度の不正咬合においては、マウスピース矯正でもワイヤー矯正と同等の治療効果が得られることが示されています。大人の矯正治療では、装置の選択肢も広がっています。
マウスピース型矯正(インビザラインなど)
透明で目立ちにくく、取り外しが可能
セラミックブラケット
白く目立ちにくいワイヤー矯正
舌側矯正
歯の裏側に装置をつけて外から見えにくい方法
さらに、仕事や子育てなどのライフスタイルに合わせて、通院回数やタイミングを柔軟に調整することも可能です。当院では、初診時から患者さんの生活背景を丁寧にうかがい、無理なく続けられる治療計画を一緒に立てています。
はい、可能です。歯や歯ぐきの健康状態が良ければ、何歳からでも矯正は始められます。
初期には軽い違和感や痛みを感じることがありますが、多くの方が数日で慣れます。
目立ちにくい装置も多く用意しています。透明なマウスピースや、白いブラケットなどがあります。
装置や治療内容により異なりますが、初診相談で大まかな費用をご案内しています。
定期的なメンテナンスと丁寧なブラッシングでリスクは大きく減らせます。当院でもサポートいたします。
はい、可能です。金属を使わないマウスピース矯正や、アレルギー対応の素材を用いた装置をご案内しています。
原則として可能ですが、妊娠中は体調やホルモンの変化があるため、無理のない範囲で治療計画を調整します。安全性を最優先に対応いたします。
必ずしも抜歯が必要とは限りません。歯並びや骨格、スペースの状況によって判断します。非抜歯での治療方針もご提案可能です。
ここまでお読みいただいた皆様に深く御礼申し上げます。
内容から「なんか矯正治療って難しそうだな」と思われた方もいらっしゃるかと存じます。
でも治療において一番大切なのは、人と人とのコミュニケーションであると考えます。当院では大学病院での治療経験や教育歴が20年を超えた矯正歯科専門の歯科医師が2名常駐し、ある意味でお互いを管理・切磋琢磨しながら治療をすすめていきます(『矯正歯科を専門とする歯科医師が複数名いる重要性』の項、参照)。両医師ともにおしゃべりが大好きで、時にお話に没頭しすぎた際はご遠慮なく制止してくださいね。
大人になってからの矯正治療は、自分自身のための投資とも言える大切な選択です。見た目だけでなく、咬み合わせやお口の中の健康を整えることで、心身の健康にも良い影響を与えます。
繰り返しにはなりますが、当院では、検査・診断・治療の三位一体を重視し、特に検査体制を充実させることで、精度の高い矯正治療を実現しています。気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
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