
小学生の矯正
小学生の矯正
小学生の矯正治療は、単に歯並びを整えるだけでなく、顎の成長や口腔機能の発達を促進し、将来的な健康にも大きな影響を与える重要な医療分野です。特に成長期における早期の介入は、治療効果を高め、複雑な処置を回避する可能性を高めることが報告されていますし、何より、小学生のお子様の成長を保護者の方と共有しながらすすめられることは、私どもにとって治療の醍醐味であり、望外の喜びでもあります。
本稿では、小学生の矯正治療の目的、治療開始の適切な時期、主な治療法、装置の種類、費用、治療期間、注意点などを総合的に解説します。
小学生の矯正治療の主な目的は、以下の通りです。
歯並びの改善
見た目の美しさだけでなく、咀嚼や発音などの機能を向上させます。(Proffit, WR, 2018)
顎の成長誘導
成長期における顎の発育を適切に導き、将来的な不正咬合を予防します。(O’Brien K et al, 2003)
口腔機能の正常化
舌の位置や呼吸、嚥下などの機能を正常化し、全身の健康にも寄与します。(Kiyak HA, 2008)
心理的な自信の向上
整った歯並びは、社交性や自信の向上にもつながります。(Thomson WM, 2012)
小学生の矯正治療は、成長段階に応じて「第1期治療」と「第2期治療」に分けられます。
第1期治療(早期治療)
乳歯と永久歯が混在する混合歯列期(6~10歳頃)に行われ、顎の成長誘導や悪習癖の改善等を目的とします。
第2期治療
永久歯が生え揃った後(12歳以降)に行われ、歯並びや咬み合わせの最終的な調整を目的とします。
上顎前突(じょうがくぜんとつ)
上顎の前歯が前に傾斜していたり、突き出ていたりする状態で、一般的に「出っ歯」と呼ばれています。
下顎前突(かがくぜんとつ)
下顎が上顎よりも前に突き出ている状態で、横顔がしゃくれたように見えます。かみ合わせが反対になるので「反対咬合」、あるいは「受け口」とも呼ばれています。
上下顎前突(じょうかがくぜんとつ)
上下の歯が前に突き出ている状態で、顎の骨に問題がある場合と、歯だけが前に出ている場合とがあります。うまく噛むことができず、見た目も良くありません。唇を自然に閉じていられない場合もあります。顎が小さく、歯が大きな日本人に多い傾向を認めます。
叢生(そうせい)(乱ぐい歯・八重歯)
歯並びがでこぼこな乱ぐい歯、犬歯が前に突き出た八重歯などをいいます。顎が小さいと歯が生える十分なスペースがないため、歯と歯が重なり合って、叢生が生じると考えられています。こちらも日本人に多く認められます。
開咬(かいこう)
口を閉じてもすき間ができ、上下の歯がきちんとかみ合わない状態です。前歯で食べ物をうまく噛み切ることができないだけでなく、正しく発音ができなかったり、咀嚼(そしゃく)がうまくできなかったりすることもあります。舌の癖や指しゃぶりが関係していることも多くあります。
過蓋咬合(かがいこうごう)
上の歯が下の歯に深く被ってしまっている状態です。このため顔が短く見えることがあります。上下の歯が過剰に接触し、歯や歯茎を傷つけてしまうこともあります。
交叉咬合(こうさこうごう)
部分的に上下の歯のかみ合わせが反対になっている状態です。顎の関節に悪影響を及ぼし、顎関節症を引き起こすこともあります。
歯並びやかみ合わせが悪くなる原因として、指しゃぶり、口呼吸、舌の癖、頬杖などの習慣(癖)が関与していることがあります。お子様が4歳くらいになったら、以下の項目をチェックしてみてください。もし当てはまるものがあれば、小児矯正を検討したほうが良い可能性があります。
拡大床(かくだいしょう)
取り外し可能な装置で、顎の幅を広げることで歯が並ぶスペースを確保します。
急速拡大装置(RPE)
固定式の装置で、上顎の中央部を急速に拡大します。骨格的な問題がある場合に使用されます。
マルチブラケット装置
歯に直接ブラケットを装着し、ワイヤーで歯を移動させる一般的な矯正装置です。
マウスピース型矯正装置(インビザライン・ファーストなど)
透明なマウスピースを使用し、目立たずに矯正が可能です。取り外しができるため、口腔衛生の維持が容易です。
プレオルソ
口腔筋機能療法を取り入れた装置で、舌や唇の筋肉のバランスを整え、自然な歯並びを促進します。
治療期間
第1期治療は1~2年程度、第2期治療は2年程度が一般的です。
費用
第1期治療で30万~50万円、第2期治療で60万~100万円程度が目安です。
保定装置(リテーナー)の使用
治療後、歯並びを安定させるために装着。
定期検診
歯並びの安定を確認し、問題があれば早期対応。
適切な口腔ケア
ブラッシングやデンタルフロスを使用し、歯の健康を維持。
1. Proffit WR. Contemporary Orthodontics. 2018.
2. O’Brien K et al. Management of the developing dentition and occlusion in pediatric dentistry. 2003.
3. Kiyak HA. Self-assessment of psychosocial impacts of orthodontic treatment. 2008.
4. Thomson WM. Self-esteem and orthodontic treatment. 2012.
5. Bishara SE. Textbook of Orthodontics. 2001.
6. Graber TM. Orthodontics: Current Principles and Techniques. 2011.
7. Fields HW. Pediatric Dentistry: Infancy through Adolescence. 2019.
8. McNamara JA. Early orthodontic treatment. 2006.
9. Pavoni C et al. The role of rapid maxillary expansion in pediatric patients. 2010.
10. Zuccati G. Rapid palatal expansion: indications and effects. 2013.
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